帰り道のこと。僕は食いしん坊を見つけた

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「さっき訊きそびれたんだけど、奏……多はなんで急にこんなこと僕に訊くの?」  好意を持つ人を名前で呼ぶのは少し気恥ずかしいかった。  自分の髪を指先でくるくるしながら、奏多は一言「なんとなく……かな」と、今にも消え入りそうな声で言った。  なんとなくでもこんなこと訊くかな? とか思いながら、全学年共通の鞄に荷物を乱暴に突っ込み、席を立つ。京子は家の用事で先に帰宅してしまったので今日は一人で帰らなくちゃいけない。  家に帰ったら何をしようか。ゲーム、読書、遊びに行く、等々扉に向かう最中、頭の中で思考する。うーん、どれも捨てがたい。  僕は所謂遊び人だった。塾には行ってないし自宅でも勉強しない。それに加えて授業も真面目に受けないでいつもばれないよう漫画を読んでいる。勉強は真面目にしないが、遊びに関しては真剣。こんな感じの子が自分の子だったら、普通の家庭では「真面目に勉強しなさぁーい!」とか言われるんだろうけど僕は今までそんなこと言われたことがない。ていうか絶対に言われない。  だって僕────親がいないから。
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