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 仮に遠距離恋愛を続けたとしても、二足、ううん、大学・専門学校・バイトの「三足」のわらじを履いてる彼と、新任店長でバタバタしている私がいつまで持つかも分からない。持ったところで、地方中心になる私の将来と都内に残る彼との将来との接点なんて、皆無に近い……。だからと言って今だけと遊びで割り切れるタイプじゃない。それなら、付き合わない方が、抱かない方が彼のためだとも思った。私だって、遊びで彼を抱きたくない。抱いて、遊びだと思われたくなかった。 ……ただ、指をくわえて、見ている。  こんなこと、初めてだった、特に社会に出てからは。  気になる異性がいれば、近づき、なんとなくの流れでベッドに入り、それで相性が良ければなんとなく回数を重ねて、互いに飽きればいつの間にか連絡が途絶えていた、なんてことを繰り返していた。学生の頃のような、挨拶から始まり、会話を重ねて、デートして、告白して、付き合って、というような順番を踏むような恋はコドモの特権のように思っていた。まさか、この歳になって、少女漫画に出てくるような恋をするとは思ってもみなかった。  その、目を合わせた一件から、別段榎並くんも変わった様子はなかった。いつもどおりにレジの鍵を渡して引き継ぎをして、仕事の話をして、それ以上のことは何もなかった。だから私の気持ちには気づいてないのだと思った。  このまま、何もなかったように。このまま、気付かれないように……。上司と部下でいようと決めた。 .
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