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そんなある日。私の昇格面接で本社人事部から本社時代にお世話になった先輩がやってきた。マネージャールームでひと通り店の状況と自分の進捗状況を説明したあと、休憩室に移動してコーヒーを飲んでいた。そこにちょうどこれから仕事に入る榎並くんが入ってきた。私はいつも通り「学校、お疲れさま」と声を掛けた。榎並くんはぎこちなく会釈をして、更衣室に入っていった。このほんの僅かの時間も惜しくて、私は更衣室のドアが閉まるまで榎並くんを目で追っていた。
「へえ?」
先輩がニヤリと笑った。私のその様子と榎並くんの可笑しなまでに硬直している様子で先輩は何かを察知したようだった。一度体を重ねているとそういう面でテレパシーが働くというか、人事部でいろんな人間模様を見て、そういう勘が磨かれているのかもしれない。
「相田はどうするんだ?。本社に戻る気はないのか?」
私は内心ヒヤヒヤしていた。そう、私は本社時代、この先輩とも“関係”があった。榎並くんの前で過去を匂わす発言をしないか心配だった。
「戻りたくありません、楽しいから」
「男遊びが、か?」
更衣室の薄い扉の向こうでは榎並くんが着替えてる。あの初日に、ネクタイをくるくるさせてる榎並くんが目に浮かんだ。
「先輩。免疫ないコドモがいるのよ? 辞めて、そんな話」
「免疫ないなら尚更だろ? 付けとかないとなあ」
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