花屋の住人

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 痛みに壁から手を離して掌を見れば、丁度親指の付け根辺りに血が滲んでいた。  顔をしかめて手を付いた場所を確認すると、木で作られた壁の一部が裂けて木片が飛び出している。  血に染まった木片に、痛みの原因はこれかと思い、無性に腹立たしさを覚えたが、 痛いと言う感覚に思考が止まる。  痛い?そんなはずないだろ。だって、これは夢か幻なんだよな?  夢や幻に痛覚は存在しないはずなのに、実際に俺の掌はジクジクとした痛みを今も訴えていた。  痛覚が働くと言うことは、これは──現実?  そんなまさか。  浮かんだ考えを直ぐに否定するが、ならばこの痛みは一体何なのだろうか。  混乱する頭に、その最たる原因であるナチの声が届いた。 「お兄ちゃん、大丈夫?」 「いや、大丈夫じゃねぇ」  正直に口から滑り落ちた言葉に、心配そうに見詰めていた紫紺の瞳が焦燥に揺れる。 「大変!お兄ちゃん、血が出てる!」  慌て始めるナチを視界に入れ、大丈夫じゃないのは怪我ではなく、ナチの存在とこの状況だと、幾分落ち着きを取り戻した思考が告げる。  いや、確かに手も痛いし、大丈夫なわけじゃないけど。 「もう止まった。……それは?」  椅子から立ち上がろうとするナチを制し、身体が擦れたことで顕になったナチの膝にある画板に目が吸い寄せられた。
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