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目の前に聳(そび)え立つアプティバ城を見上げ、ここにいたのは一年前のことなのに酷く懐かしいと感じた。
それは、実際には十年もの月日がこちらで経っているからだろうか。
「懐かしいな」
何故再びこの地を踏むことになったのか未だに分かってはいないが、少なくとも夢や幻ではなく現実なのだと、血は止まったが鈍い痛みを伝える親指に眉を寄せた。
「お帰りなさいませ、姫様」
「あんたは……」
門前で俺達を出迎えたのは、門番であろう二人の兵士と見覚えのあるメイドだった。
まるで人形のように花に水を撒く作業を繰り返していたメイドは、目が合うと俺に微笑みかけた。
そこに今朝感じた不気味さはなく、あるのは血の通った人間の温かさだけだ。
「姫様の身の回りのお世話をさせて頂いております、メイドのリースと申します」
そう言って、リースは深く頭を下げた。
「お帰りなさいませ、ウォルティア様」
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