3141人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
美子が殺害されてから約一年後。
雄蔵は完成した校舎を、土手から眺めていた。
自らが現場監督として指揮を取り、造り上げた作品を。
「一時はどうなるかと思ったが……泰蔵を処分出来て良かったぜ。ま、小野山の娘には悪い事をしたがな」
日頃から手が掛かる兄の面倒を見ていたが、凶行を止められなかったと涙ながらに訴えた事で、雄蔵は世論を味方に付けていた。
そんな雄蔵を疑う者は、誰もいなかったのである。
「さて、この現場ともおさらばだな。二度と来る事はねぇ」
フンッと鼻で笑い、家に帰ろうと校舎に背を向けた時だった。
「あ~かい ふ~くを くださいな~」
背後から、奇妙な歌声が聞こえて来たのだ。
この土手には他に誰もいなかったはずなのに、誰の声だ?
不思議に思いながら振り返った雄蔵。
「!?お、お前は……」
そこで、雄蔵はいるはずのない者を見てしまったのだ。
赤く染まった服を着てぬいぐるみを持つ、髪の長い少女の姿を。
それは、一年前に自らが強姦して殺害した少女、小野山美子である事は一目で分かった。
最初のコメントを投稿しよう!