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深夜、私は神父服を纏い、聖都中央にある、聖王のおわす聖城の一室を訪ねました。
「来たか、早速だがそれが資料だ」
禿頭の聖職者が私に紙の束を放りました。私は受け取って目を通します。私は資料の一ページに目を止め、聖職者に声をかけました。
「シヨォク=スズナリ大司教……」
「名を呼ぶな。誰が聞いているかも解らぬものを、軽率な」
スズナリ大司教は顔を歪めて吐き捨てました。確かに軽率でしたね。私は反省しながらもう一度口を開きます。
「失礼しました。一度にこれだけ異端者が見つかる事は初めてでしたので……それも、大司教のお一人が異端者とは」
スズナリ大司教と対をなす立場のショー=トック大司教が、異端者の資料には記載されていました。良く見ればトック大司教の下の方々が資料の殆どを埋めています。
「信じられぬのも無理はない。トック大司教はとても信心深いお方に見えるからな」
スズナリ大司教は葉巻を取り出しました。聖教では葉巻は許されざる大罪です。
「トック大司教の私室から出てきたものだ。清いお前には聞かせられぬが数え切れぬほどの罪を重ね続けておる」
スズナリ大司教は悲しげに眉を寄せました。首を振ると、合わせて頬の肉も揺れます。波紋のように服から出た肉が波打つのが静まってから大司教は私を見ました。
「異端者を浄化せしめよ、聖使徒」
「はい、大司教。主の御心のままに」
私は腕を巻き込んで深く礼をしました。聖使徒としての仕草です。この瞬間から、私は聖使徒になるのです。異端者を浄化する為に。
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