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まだ蝉の声が遠くで不可思議なメロディを奏でている。
残暑の厳しさが残る9月初旬。
沙弓は額に滲む汗をから前髪を守りながら、一向に頭に入らない英文を黒板からかき写していた。
書いた文字がノートのうえで踊っている。
なんでも右上がりになってしまう沙弓のノートは、どの教科も時だけは楽しそうだ。
…早く終わんなくてもいいから、暑いのだけなんとかなんないかな。
開け放たれた窓から入ってくるのは熱気だけ。
沙弓の思いとは裏腹に、カーテンを揺らす風は姿をあらわさない。
書き取りを終えて見上げた空は、小さな雲をポツリポツリと散らしただけの青空。
日差しが校庭を照り付け、暑さで乾いた砂が体育の授業をしている生徒達の足元で白く舞っていた。
「見んなよ…」
「…あんたの事なんか見てないし」
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