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紗英は惚れた色眼鏡なしで見ても美人な部類だと思う。だが、中学時代には地味だということもあってか野郎同士の会話でも名が上がることはなかった。それなのに。
「いや、確かに可愛かったけどさ…」
もう裕もいないんだし、思い切り独り言も呟いてやろう。
シンプルなワンピースに身を包んだ紗英は、化粧もして記憶よりも輝いて見えた。高校時代周りにいた女子や今自分の周りにいる、派手なメイクの女子とは全く違う。だからこそ、目立ってしまったんだろう。紗英の話をしている同級生は、腹の立つほどいた。
「彼氏いてもおかしくねぇよなー…」
逆に、あれだけ可愛い紗英をほうっておくなんて、周りのやつらは何を考えているんだ。いや、彼氏はいないに越したことはないのだが。
「ハァ…。埓あかねぇ」
一人悶々としても、彼氏がいるかわかるわけでもない。
彰太は一つ深呼吸をして、携帯に指をかけた。
こちらこそよろしく
中村さんって、今何してんの?
出来るだけ何も考えずに打ったら、こんな感じだろう。恋心なんて持たない相手への初メールを想像すれば、これが妥当な線だ。しかも、質問をしておけばメールは続くだろう。この前同窓会で久しぶりに会った男であっても、質問を無視出来るような人ではないのだ。
「……よし」
生唾を飲み込み、指をかける。告白をするわけでもないのにドクドクと心臓がうるさい。
送るぞ。うん、送ろう。
覚悟なんていらないはずなのに、指を離してはかけ、またかけては離して、を繰り返す。どう思われるだろう。不自然に思われないだろうか。ちゃんと返信があるだろうか…。
「彰兄」
「うおあ!?」
ぐるぐるとマイナスの言葉が頭に渦巻き始めたとき、突然背後から声。
「ああああ!」
それに驚いて、送信してしまっていた。結果オーライかもしれないが、彰太は思わず後ろを睨み付ける。
「裕!急に話し掛けんじゃねぇ!」
「ごめんごめん」
裕は悪びれる様子もなく、台所へと向かって行った。そして冷蔵庫を開ける音。
「彰兄も麦茶飲む?」
「…飲む」
彰太は不機嫌そうな顔だったが、そう返事をして携帯をポケットに入れ、台所へと向かった。
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