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橋元だ、と脳は瞬間的に名前を告げた。相変わらず顔小さいな、とこの場に似合わない感想が頭を過る。という、か、何か、返さないと。
「久、しぶり」
不自然な返事になってしまったが、彰太は気にしていないようだった。
「久しぶり」
椅子に座っていた紗英に後ろから声をかけた彰太は、笑顔でグラスを近づけてきた。紗英は慌てて自分のグラスを手に取るが、どうすれば良いのかわからずに動きを止める。
「…?」
すると、彰太の手が伸びてきた。紗英は意味が全くわからずに首をひねる。
(……あ、)
「乾杯」
彰太の手は紗英のグラスを掴むと自分のグラスに押し当てた。ゴツ、という可愛くない音が鳴る。
紗英は何も言えずに彰太を見た。
「中村さんは今大学生中っすか?」
軽い口調で彰太が言う。
「そう、だね」
「へ~」
未だに軽いパニック状態にある紗英の口は、またしても不自然に言葉を切った。
「向こうにクラスの席あるのに。来ないの?」
「あ、えぇと、あとで行く…」
かもしれない
紗英は語尾を濁した。正直に言って、クラスのテーブルには行く気はなかった。だが、彰太は紗英の言葉に嬉しそうに笑って、
「まじ?じゃあまた後で」
と去って行った。
「紗英っ、今の誰?」
「……橋元彰太」
「あ~」
隣に座っていた友人に聞かれ、紗英は小さく答えた。
「なんで挨拶されたの?」
「さあ…三年のとき同じクラス、だったから?」
紗英はちらりと、男友達と楽しそうにする彰太に視線を送った。
今日は地元の町の成人式があった。そしてそのあとに中学校の同窓会が行われていた。
一ヶ月ほど前、紗英は同窓会に行くかどうかを正直迷っていた。しかし、なかなか会えない友人もいたし、先生たちにも会いたかったので、結局は行くことを選んだ。
悩んだ理由は、会いたい友人より、出来ればかかわり合いになりたくない同級生の方が多かったから。特別な何かがあるわけではないが、紗英や隣の友人とは違う雰囲気のメンバーが多いのである。
簡単に言えば、『ギャル』や『ヤンキー』。
ホテルでの同窓会にも関わらず、マイクで酔っぱらいが叫んでいるこの光景を、紗英はあまり好んではいなかった。
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