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「…」
裕はあからさまに呆れた顔をした。その訳は、兄の彰太にある。
「彰兄」
「…」
「はぁ…」
別に自分は長風呂ではない。が、入る前とあがった今、全く同じ体勢で携帯を睨む兄には、溜め息も出てしまうというものだ。
「彰兄!」
「うおっ!…ばっ!裕!ビビらせんなって!さっさと風呂入って来いよ!」
「さっさと風呂入ったっつの」
「…は?」
「何悩んでんの?」
「ばっ、ちょっおま…!」
彰太は髪の濡れた弟を見て一瞬パニックになり、動きを止めた。その隙に裕は彰太の携帯を取る。見ればメール作成画面だった。それも白紙の。
「?」
「バカ!返せって!」
携帯は彰太の元に戻る。裕はしばらく無言で兄を見つめ、
「片思い中だって言ってた同級生の紗英さん?」
「~っ!」
図星とはこのこと。彰太の顔は急激に赤く染まっていく。裕は、はいはい全てわかりました、とでも言うように数回頷くと、二階の自室に向かった。
「青春してんね~、お兄ちゃん」
「~っ、殴るぞお前!」
相変わらずエスパー並みの鋭さで自分をからかう弟に、迫力のカケラもない真っ赤な顔で彰太は叫んだ。
こちらこそよろしく
ところで今彼氏いる?
「いやいやいや、不自然だろ」
何がところで、だ。
いくら何でもこのタイミングで聞くのは不自然過ぎる。彰太はセルフツッコミを入れ、二行目の文章を消した。しかし、気になる。一番気になるのは今まさに消した内容なのだ。
……紗英に、彼氏。
「うっわ、想像したくねぇ」
勝手に想像して勝手に傷付いてしまった。
紗英は(多分)人見知りだ。特に男子と話しているところはほとんど見たことがない。しかし、それは中学までの話だ。高校や大学に入ってからの彼女を、彰太は知らない。もしかしたら人見知りを克服して、男子とも話せるようになっているかもしれない。
しかしそれよりも嫌なのは、人見知りのまま彼氏が出来ているパターンだ。彰太がじわじわ詰めた距離よりも深く入り込んだ男がいたら…。考えるだけでイライラするし、なんだか胸が痛い。
それに。
『中村さん、可愛くなってね?』
つい先日、彰太の真後ろから聞こえてきた会話だった。
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