Prologue

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  スタンドは歓喜に沸き、ベンチへ戻るムトケンは俺を一瞥する。 「赤池くんの声が届いたんだね」 優しく透き通るような声が俺の心を鷲掴みにし、夏の汗臭いイメージを払拭する爽やかな匂いが鼻先を掠める。 遥香だ。 俺では名前もわからないような金管楽器を手に持ち、首元に水色のタオルを巻いている。 至福の時が来た──と浮かれ気分になるのを堪え、「ほら、攻撃始まるぞ。早く戻れ」と遥香に言う。 遥香は白い歯を覗かせ、「うん。わかってる」そう言って自分の定位置へ戻り、指揮者の指示に従って演奏を始める。 楽器を吹く遥香は夢を叶えることに一生懸命で、一度演奏が始まれば俺を見ることはない。 7回裏の攻撃は一番からの好打順で、カキーンという快音と共に先頭打者が出塁する。 「ピンチの後にチャンスあり……か」 青池の言葉が耳に残った。
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