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「初音、洗面所あいたよ……って、どうしたの?」
俺が動かないのを見て、光博が不思議そうにしている。
「あぁ、コレを見てたんだ」
壊さないようにそっと、ピアノのラインを指でなぞる。すると、後ろから光博が抱きしめてきた。
「良かった。初音が気に入ってくれたみたいで」
その声は、心底嬉しそうだった。
「うん。気に入ってる」
俺も素直に答える。
「初音がそんなだと、また襲いたくなるよ」
「はぁ? そんなって、どんなだよ」
俺がピアノから慎重に手を離し、光博から逃れようとすると、首筋にキスされた。吸い付くような長いキスに、これは痕になるな、とため息をついた。
「また、呪いか?」
「ふふ、そう。初音が俺とピアノ以外に興味がいかないように」
「バーカ。……他に興味なんかねぇよ」
光博はその言葉に満足したのか、抱きしめていた腕を解いた。
「洗面所、使って。俺は何か買ってくるよ」
「ああ、頼む」
にこやかに笑う光博に、何か嫌な予感がしたが、ここは気のせいだと思うことにした。
でも、嫌な予感は的中し、外から帰ってきた光博の買ってきた物の中に栄養ドリンクがあり、明日から仕事だというのに、ギリギリまで抱く気だな、と、悟ったのだった。
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