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あの遠くに見える《塔》に興味なんてなかった。
寧ろあってもなくても変わらない、そんなような建物。住宅街と高層ビルが佇む中あれはそびえる。それは何よりも高く、メカニックな構造で外見も目が悪くなりそうなライトが無数に埋まっている。
そんなものに誰が「近寄りたい」「触りたい」「入ってみたい」などとほざくのだろうか。そのぐらいあれは当たり前となっている。そんなくだらないことを考える今日この頃、突然やつが迫ってきた。内容はこうだ。「近寄りたい」「触りたい」「入ってみたい」と教室の窓から見えるそれを力強く指差した。それも唐突に。そして今、うるうると目を輝かせねだる猫のように寄ってくる女に苦戦中の相馬康也がここにいた。
「康也ってばぁー、ねえ聞いてる? 康也おじいちゃーん」
今だけ耳を取りたいと通り過ぎる、切実な願いだった。
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