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一方、私はなんの習い事もしていなかった。興味が無かったし、母から「スイミングやってみない?」と提案されることもなかったからだ。
「ユカリちゃん、ピアノコンクールで賞状貰ったんだって」
やや興奮気味に話す母に、私は「へぇー」だか「ふぅーん」だか答え、「すごいね」と笑った。ピアノなんて弾いたこともない、音符なんて何も知らない私には、それは本当にすごいことだった。ユカリちゃんの「ねこふんじゃった」は、それはそれは愉快で、なめらかに動く指に見惚れたことを思い出した。私がそのメロディーを頭の中で繰り返していると、母は私の顔を見詰める。その目は憂いを含む。
「ユカリちゃんは本当に頑張り屋さんだね。だからコンクールで賞状を貰えたんだよ。それに比べてアンタは――
――アンタはなにも出来ないね」
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