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<マヨヒガ 八雲家>
「・・・珍しいこともあるものだ。秋雨は過ぎ去ったというのに、再びこの大雨か」
「藍様、はい!」
「ん、傘を出してくれたか。橙、ありがとう」
マヨヒガは“妖怪の山”の中腹、山の上は気候が変わりやすく雨も降りやすいが・・・昨日までの一週間がすべて大雨だったというのに。
・・・この折りたたみ傘というのは便利だが、このような大雨では使い物にならないな。
「さて、では買い物に出かけてくる。大丈夫だと思うが、戸締りはしっかりな」
「は~い!…テレビ、テレビ!」
うむむ、ここ最近は少し見すぎな気がする・・・頃合を見計らって諭す必要があるかもな。
居間に走り去っていく橙を視界の端に入れながら、私はそっと戸を閉めた。
「さすがの天狗たちも浮き足立っているな。そういえば、今日は守矢神社では信仰者を集めて小さな催しをやるとかいっていたか…」
マヨヒガを離れて、雨雲のない高度まで上昇して人里へ向かう。
どうやら、局所的に大雨が降っているらしい。地上から見ると幻想郷全体に雨が降っているようだが、ところどころに雲の切れ間がある。
そこから、これから秋を向かえ、冬を迎えるというのにもかかわらず季節はずれの喧騒に包まれている妖怪の山とその近辺を垣間見ることができた。
「あら、あなたは紫の」
「奇遇だな。良いネタを手に入れることはできたか、射命丸 文」
「それは次号で明かさせていただきますね」
「期待しておこう」
視界の先に見えた黒点、目を凝らすと、それは鴉天狗の知り合いだった。
新聞製作を生業とする天狗の一団の中で、特に秀でた能力を持つ彼女とは、数回の異変で凌ぎを削り、協力もした。
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