序章 ~ "秋" 暴風の前奏~

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「え、ちょ…あの人間、まっすぐこっちに向かってきてない?」 「来ているな」 「何でそんなに冷静なのよ」 「先ほども言ったろう。例え発見されたとしても、幻想郷に連れて帰ってから紫様が何とかしてくださる」 それはそうだけど! いくら天狗の私だって、寿命が長いだけで致命傷を食らえばそれまで…。 …もしかして、藍は銃と聞いて火縄銃とかを想像しているんじゃないでしょうね? 取材道具を補充するためにわりと頻繁に外界に出入りしているから知っているけれど、今の時代じゃ一度に多数の弾丸を撃ったり、厚さが数ミリもある窓ガラスを貫通するようなやつが普通に出回っている。 ……。 「ねえ、気絶させるのってありかしら?」 「それでも構わないぞ。生かすも殺すも君次第だが」 ちょ…結構怖いことを言うのねぇ。 ……私の本気なら、人間が感知するよりもずっと早く動ける。 方向も分かっている。タイミングだけね。 今っ!! 「よし。…うん、結界は元通りだ」 これで修復は完了。 結界の構造式と装置が攻撃されたようだが、それほど大きな損傷はなかった。 …この程度の損傷で、あれほどの影響を幻想郷に及ぼす…? 腑に落ちない懸念材料が脳裏に浮かんだ瞬間、人間に対処すべく祠を飛び出した射命丸の叫び声がこだまする。 「ら、藍!!ちょっとこちらに来て!」 「…ふう」 「どうしたのだ、射命丸」 「見て、この人間。……私の知識が正しければ、今時の人間は、こんな服装で山の中にわざわざ入るようなことはしないと思うのだけど」 手帳にペンを走らせる射命丸の傍らには、気絶した一人の人間が横たわっていた。 そして、その服装を見て私は時代錯誤まで起きたのかと感じざるを得なかった。 その服装は、まるで…ルネサンス期のフランスの宮廷騎士を思わせるような。豪華絢爛な装飾が施されていた。 右手には見たことがない小型の銃を握り締め、腰元にはいわゆる“レイピア”が携えられている。 …紫様の気まぐれでたびたび世界の国々を見聞して回るが、このような服装をする人間など近年ではいるわけがない。 「…息はある、気絶しているだけ。とりあえず、医者に見てもらったほうが良いわね」 「そうだな。永遠亭に向かおうか」
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