憎しみの果て

5/18
前へ
/480ページ
次へ
夜が明け目を覚ますと、そこには当主の清々しい顔があり、姫はその顔に頬を赤らめた。 思えば自分は着物を一枚まとっているだけ。 恥ずかしい姿に、姫は身体を丸める。 そんな初々しい姿に、当主は紫と銀の混じった稀なる瞳に笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でる。 「おはよう、萩の姫」 「兄上、様……っ。その…茵をお借りしてしまい、申し訳ありません…」   赤い顔の姫に、当主はくすりと笑い、結われていない淡い紫の髪を掻き上げながら起き上がり、彼女に着物を羽織らせる。 と、姫も起き上がり、その着物に身を包んだ。 「おまえを奪った男に、謝罪か。普通の女ならば、最低だと叫び頬を平手打ちだろうに」   情けなく笑う当主に、姫は暗い顔で俯く。 「初めてではございませぬもの。あなた様は、不安に押しつぶされる私を、いつでもこうして慰めてくださいます」 「自分を慰めているだけかもしれぬ。それでも良いというのか」 「……萩は、あなた様と生きると、決めました」   言い、顔を上げ当主を見つめる。 その朱色の瞳は弱いけれど、強い意志を感じさせる。 その瞳に、当主は驚いていた。
/480ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加