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答えた騎士の胸には『エンパイア警備保障』という社名がある。騎士団の設立時に作ったもので、世間に対する隠れ簑として使っている会社の一つだ。犬妖であるナツキは臨時警備員に扮しながら、実際の警備職にも携わっているというわけだ。
責任者であるリーダーの下、十名ほどの騎士が警備員として『たちばな神社』を警護しているはずだ。彼等のおかげで二度ほど起こった小さな喧嘩もすぐに解決した。
「というわけで陛下、あとは我々に任せて休まれてはどうです」
そんな優秀な戦力の一人が周囲を見回して、こう提案する。
「いや、責任者がいないとまずいだろう」
「名義は陛下ではないので問題ないと思います。ここは人の気性が穏やかですし、もうトラブルは発生するような状態だとも思えません。なにより陛下は働きすぎですよ」
一度は反駁したものの、キッパリと言われて状況を再確認してみる。
参拝列は跡形もなく、まばらに談笑するグループがいくつか存在しているだけで、もはや揉め事などが起きそうな気配はない。それに最初から指示らしい指示を与えなくても、警備員に扮した騎士たちは滞りなく参拝者を捌いていた。
「……なら、お言葉に甘えるとするかな」
ナツキの提案に首肯して、見送る彼から離れて境内をゆっくりと周回する。どちらにしても陽響の出番は残されていない。ナツキの意見も尤(もっと)もだろう。
ゴミや煙草の吸い殻は、境内を巡回する妖たちが拾い集めているので驚くほど綺麗だ。狛犬の石像にも、鎮守の森にも落ち葉一つなく整然としている。
「……ほんとにやることが無いな」
美音の生家でもある『たちばな神社』から人影が減っているのを確認し、陽響も肩の力を抜くと欠伸(あくび)が出た。かれこれ二十時間も起きているので体ではなく、脳が睡眠を欲しているようだ。
一時は参拝客の整理に追われたが、ようやく人心地つくことができるだろう。
「あー、ひーちゃん欠伸してる」
間延びした声に振り返ると緋袴姿の美音が物販所から出てくる所だった。きっと店番を母親やバイト巫女に任せてきたのだろう。
巫女服の幼馴染みは、厚手の手袋をぽふぽふ鳴らしながら満面の笑みを浮かべている。いつものように楽しげで、真冬の寒さもまるで気にしていないようだ。
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