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忙しく繰り出される注文と、気持ちだけじゃなく身体まで中年で大きくなった親父共の世間話に付き合って、ようやく少し落ち着いてくる。
稔は店の奥に入って、厨房に突っ伏した。
「おいおい、稔。何疲れてんだよ若者が。」
そんな疲労感たっぷりな稔に話しかけたのは、この居酒屋の大将の美作陽(ミマサカ ハル)30歳。
長めの髪を後ろで1つに結って、三十路を迎えてからやっとらしく見えてきた無精髭をたくわえた、頼れる兄貴のような人。
「うるさいなぁ、あの酔っ払い共の相手してると、自分も年取ったような気になるの。」
稔の言葉に、美作はたしかにと笑う。
この美作陽という男は、大層な食わせ者だ。
就職氷河期を迎えて昨今の若者達が苦難しているなか、あっさりと大手企業への入社を決め、そしてあっさりと退職し、この年で居酒屋の大将をやっているのだから。
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