“先輩”

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「…なんでもない! ごめん、中入ろう! みんなとっくに中にいるよ」 先に歩き出した柳井を追いかけ、水族館の入り口をくぐってから。 雅は柳井の腕を、掴んだ。 「あの、先輩…ほんと、あの時はごめんなさい。あたし、自分の事で精一杯で…打ち上げにも出られなかったし」 薄暗い中で立ち止まって、雅は急に申し訳なさげに俯いた。 「彼氏では、ないんです。とても、お世話になった人で」 あの日は偶然会っただけなんだけど。 今でも、お世話になっていて。 「ちゃんと説明も出来ないまま、それきりにしちゃって、ごめんなさい」 「いや……。ごめんね、へんな勘繰りして」 「ほんと、ごめんなさい…」 申し訳なさそうに見上げる雅は、柳井の腕を放した。 「…ほんとは、何度か電話したんだ、雅の家に」 「…え?」 「そしたらお姉さん?が出て、雅は友達の家に、行ったきりですって…いうから…もしかしたら…」 背の高い…金髪のあの人んとこ行ってるんじゃないか、って。 「でも彼氏じゃないんだね、良かった」 はにかむ柳井に、何からどう説明したものか悩んだ雅は。 結局、断じて彼氏ではないです、と凱司の為に否定することしか、出来なかった。  
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