2894人が本棚に入れています
本棚に追加
/843ページ
マグロとカツオが回游する水槽に、ぐるりと囲まれているホールで、皆は待っていてくれた。
「須藤遅い!」
「ごめんね、待たせちゃって」
須藤、と名字で呼ばれる事が、ずいぶん久しぶりな気がして。
雅は、はにかんだ。
同級生と先輩。
男女共に入り交じったグループだけれど。
付き合い始めました、といった甘い空気が、やたら目立っていた。
雅を待っていたのは確かなようだけれど、それもそっちのけでイチャイチャしている友人たちに、雅は少し怯む。
「柳井先輩、ずっと外で待っててくれたんだからね!」
あんたが居ないと、先輩来た意味ないじゃん、と意味深に笑う友達に、雅は。
愕然とした。
「……なん、で…」
「あ、いや…別に大丈夫だよ」
慌てて手を振る柳井を見上げ、雅は今更ながらに、現状を見た、気がした。
「別に、深い意味はないんだ。あいつらが、雅すぐ迷子になるから待っててやれ、って…」
もはや、ほんのり上気する柳井を、真っ直ぐには見られなかった。
いつの間に、こんな空気になったのだろう?
この前までは、誰かと誰かが付き合っているなんて、なかったのに。
もしかして柳井先輩と付き合う期待、されてる…?と。
雅は。
無理だ、と咄嗟に思うと同時に、眉をひそめて俯いた。
そういえばライブの日にも。
何故か傍にいた。
理不尽に威圧されてしまったのも、彼が一人で雅に付いていたからだ。
「…雅?」
そうやって名前で呼ぶのは、この中では柳井と、同級生の女の子だけ。
何も…気付かなかった事にしたい。
寄せられた好意は、今ならばまだ。
なかった事に、できる、かな。
最初のコメントを投稿しよう!