“先輩”

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マグロとカツオが回游する水槽に、ぐるりと囲まれているホールで、皆は待っていてくれた。 「須藤遅い!」 「ごめんね、待たせちゃって」 須藤、と名字で呼ばれる事が、ずいぶん久しぶりな気がして。 雅は、はにかんだ。 同級生と先輩。 男女共に入り交じったグループだけれど。 付き合い始めました、といった甘い空気が、やたら目立っていた。 雅を待っていたのは確かなようだけれど、それもそっちのけでイチャイチャしている友人たちに、雅は少し怯む。 「柳井先輩、ずっと外で待っててくれたんだからね!」 あんたが居ないと、先輩来た意味ないじゃん、と意味深に笑う友達に、雅は。 愕然とした。 「……なん、で…」 「あ、いや…別に大丈夫だよ」 慌てて手を振る柳井を見上げ、雅は今更ながらに、現状を見た、気がした。 「別に、深い意味はないんだ。あいつらが、雅すぐ迷子になるから待っててやれ、って…」 もはや、ほんのり上気する柳井を、真っ直ぐには見られなかった。 いつの間に、こんな空気になったのだろう? この前までは、誰かと誰かが付き合っているなんて、なかったのに。 もしかして柳井先輩と付き合う期待、されてる…?と。 雅は。 無理だ、と咄嗟に思うと同時に、眉をひそめて俯いた。 そういえばライブの日にも。 何故か傍にいた。 理不尽に威圧されてしまったのも、彼が一人で雅に付いていたからだ。 「…雅?」 そうやって名前で呼ぶのは、この中では柳井と、同級生の女の子だけ。 何も…気付かなかった事にしたい。 寄せられた好意は、今ならばまだ。 なかった事に、できる、かな。  
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