接触

2/21
2887人が本棚に入れています
本棚に追加
/843ページ
鷹野は、帰って来なかった。 いつもの時間をとうに過ぎて、連絡もない。 「…まだ、かな」 顔に、はっきりと不安を浮かべ、10分ほど前から凱司の傍を離れなくなった雅が、ついに凱司のシャツをつまんだ。 「大丈夫だ。そんな顔すんな」 「……ほんと?」 「ああ。おおかた、飛び込みで誰か来たんだろ」 言いながらも凱司は。 今日に限ってそんな客、あいつは受けねぇよなあ、と時計を見やった。 いつもよりも、2時間過ぎていた。 「おい」 テーブルに乗ったノートの隙間に挟まったプリントを眺め、凱司は一ヶ所を差した。 「新聞スクラップってなんだ」 指にしたプラチナのリングが、“世界史:新聞スクラップ”と書かれたそばで、カチカチと音を立てる。 「……み…見てません!凱司さんは見てません!……ね?」 一瞬の間の後、引ったくるようにプリントを手元に引き寄せた雅が、甘えるように凱司を覗き込んだ。 「てめぇ……宿題くらいはマトモにやれと…」 言っただろうが! と、怒鳴りかけ、凱司は急に疲れたように大きく。 息を、吐き出した。  
/843ページ

最初のコメントを投稿しよう!