キスと、それ以上

6/18
前へ
/843ページ
次へ
鷹野が戻るまで、まだ時がある。 雅の淹れたコーヒーは冷め、小さな陶器の灰皿は、いつの間にかいっぱいになっていた。 雅が誰かに恋をする。 構わない、じゃないか? 最初から、そうなったら手放してやろうと思っていたのだから。 俺じゃなければ鷹野で、鷹野じゃなければ俺だ。 と、思ってはいる。 どうしてそう思ったのかは、思い出せないが、多分、今のところ、間違えてはいない。 今のところは。 だがいずれ。 俺じゃなく、鷹野じゃなく。 友典ですらない、誰かだったら、平静でいられるだろうか。 平静を、装えるだろうか。 「雅」 溢れそうな灰皿の上に、更に灰を落とした。 「やだ、凱司さん吸いすぎ」 片付けろとでも言われると思ったのか、呼ばれたままに近寄ってきた雅は、山になった灰皿の中身を寄せると、指に挟んだそれも早く消せとばかりに、凱司の目を、覗き込んだ。  
/843ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2897人が本棚に入れています
本棚に追加