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「すみません!すぐっ…支度っします!中に居て下さい…!」
叫びながら現れたかと思えば、友典はそのまま駆け抜けて見えなくなった。
「……ずぶ濡れでしたね」
「あーあー床にボタボタと」
すっかり玄関先にしゃがみこんだ雅と凱司。
「宇田川、別に慌てなくても大丈夫だぞ」
「友典さんも~!まだ遅刻しませんから良く拭いてくださいね!!」
雅は、肩掛けの通学バッグを、いつもと逆の肩に掛けていた。
痛いなら文句のひとつも言えばいいのに、雅は変わらずに笑うだけだ。
「友典さん、可愛いですね」
「本人に言うなよ。お前に言われたんじゃ立ち直れねぇ」
「あたし、ずぶ濡れないですもん」
「嘘つけ。お前に会った時は酷い有り様だったじゃねぇか」
「…………」
淡々と喋る凱司も、雅も、訪れた沈黙に、ふと気恥ずかしい気がして、互いに目を、逸らした。
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