凱司不在

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雅は、ひとりで柳井を待っていた。 教室に行ったら、誰もおらずに、きっと前の授業が他の場所であったのだろうと、そのまま廊下に立っていた。 友典には言わなかったけれど、昼休みしか、時間がない。 柳井と会わせたら、またもめるかも知れない。 「誰待ってんの?」 隣の教室から出てきた、背の高い上級生が、雅に声をかけた。 「…柳井先輩を」 「…あれ、あんた宇田川の?」 覗き込むような仕草に、思わず身を引き、曖昧に頷いた。 短い期間で、ずいぶん有名になってしまった。 雅は相手を見た覚えもないのに。 宇田川、という名は、そんなに有名なのだろうか。 あんなに静かで真面目そうなのに。 「あれの何処がいいの?」 「え?」 「あいつ、中学んときからよく女の子泣かしてるし、気を付けてなよ?」 「…泣かす?」 思いも寄らなかった。 女の子を、泣かせる? どういう意味だろう。 意地悪する?それとも、手酷く振る…とか? 「…ありがとうございます、気を付けます」 雅は、納得いかないままではあったけれど、尚も覗き込んでくる上級生を拒絶するように、俯いた。  
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