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雅は、玄関をくぐる頃には、無言だった。
震えてもいないし、泣いても居ない。
笑っても、いなかった。
ただ、エナメルの赤いミュールを脱ぐときに、諦めたような、それでいて酷く迷っているような目を、鷹野の靴に向けた、だけ。
目を上げないまま、ごめんなさい、と囁くように呟いた雅は、鷹野の手を取った。
「お風呂、きっとお湯あふれてますね」
一緒に入りましょう、と。
友典の事にも、由紀の事にも、それきり触れることのないまま、鷹野の手を引く雅の指は、その躊躇のない動きとは裏腹、ひどく冷たくて。
切り込みを入れたストローを無造作に掴むと、ためらうことなく。
まっすぐに。
バスルームへのドアを、開けた。
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