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「………だれ?」
やはり隅の方から聞こえる声。
コンクリートの床は冷たい筈なのに気にしていないというように斬雪は何時も壁にもたれ掛かり頭をうめていた。
『俺だ。』
「シズにぃ?」
『静慈だ。まぁ、いい。これ…』
俺はポケットからヘアピンを取り出すと斬雪の方へ腕を伸ばす。
明かり一つない部屋から足音が聞こえた。
服が擦れる音と、ペタペタと裸足で歩く音。
その時、手に何かが触れた。
ヘアピンから手を離すと斬雪は嬉しそうに声を漏らした後、笑った……ような気がした。
「ありがとう。大切にするね。」
『絶対にそれを無くすな。せっかくの俺からのプレゼントなんだから。』
「最初で最後のシズにぃからのプレゼント?…何だか悲しいな…。」
『勘違いするなよ。それは君が此処にいた証だよ。恥じれ。此処で無駄な時間を費やしたことを。そして悔やめ。己の力で出れないこの無力感を。』
うん。 と返された返事を背に俺は部屋を後にした。
もう此処へは来ないだろう。
暇つぶしに見つけた玩具が消えた。
手から滑り落ちる様に。
楽しいものは直ぐにきえる。
時間も、そして、人も。
愛情も、幸福感も。
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