第一章

4/39
前へ
/180ページ
次へ
「ちっ。なーにかわしてんだよぉ、クソ兄貴がぁ」  それは、妹の皐月だった。  身長一四三cm。予想体重は四二kg。小柄ながらもほどよく膨らんだ胸を持ち、くびれた腰の位置が、ぼくとほとんど変わらないくらいに、かなり高い。星を散らした夜空のように輝きなびく長い黒髪は、その腰のあたりにまで届いている。  すでに海星学園のオリーブグリーンを基調とした制服に身を包んだ皐月の、すらりと伸びた細い足は、プリーツスカートにふわりと覆われつつあった。  皐月はめくれ上がっていたスカートが落ち着くと、包丁をぶっ刺したまま、ぐりんと首だけぼくに向け、ほほをぴくぴくと引き攣らせた。  目には細い血管が幾筋も浮き出し、瞳孔は小さくしぼんでいるのか、光を映していなかった。虚ろな黒い瞳は底なしの井戸のように、深い闇に沈んでいる。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1103人が本棚に入れています
本棚に追加