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広大な砂漠の真ん中で、その老人は立ちすくんでいた。
ここにたどり着くまで、どれほどの時間を要しただろう。森をさまよい、山を駆け上り、海岸をなめるように歩き尽くし、サルから進化した「人」の形跡が少しでもあれば、石ころ一粒に至るまで調べ上げて来たのだ。
老人が探していたものは、考古学者として脚光を浴び始めたころ、古墳の奥から見つかった古文書による一つの言葉にあるものだった。「至宝の玉」と書かれ、永遠に手にすることができない物だと解釈される文章がしたためられていたのである。
その宝とは、「地球の卵」。
学者だけではなく、あらゆる方面の知識者たちの興味を誘ったが、一人として追求しようとする者はなかった。抽象的なものなど、探すこと自体、学識を覆す無駄な作業だとされていたからである。
しかし老人は、看過することが出来なかった。
なぜなら、古文書に書かれていた言葉が、以前、プロポーズしたときに言った妻への言葉と同じだったからである。
「君に〈地球の卵〉をプレゼントするよ」
老人――いや、当時青年だった男は、「地球の卵」を探すべく、新婚である家を飛び出したのであった。探し当てるまで絶対に帰らないと誓って……。
――あれから三十数年、最初に探し始めたこの砂漠に、老人はたどり着いていた。
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