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――気がつけば、夜の暗闇が広がっていた。
老人はしわがれた手で砂をつかんだ。それを地面へ投げつけようとして――手の中で何かが動いた。
老人が手を開いてみると、握った砂の中から小さなサソリが顔を出した。
「おいおい、乱暴はやめてくださいよ!」
「いや、申し訳ない。気づかなかったんだ」
「さっきから見てるけど、かなり悩んでますね。僕が教えてあげましょうか?」
と、サソリが笑いながらいった。「卵かどうか知りませんが、生命の卵には違いありません。でも、永遠に手にすることはできない、って書いてあったんでしょ? だったらあれしかありませんよ。あなたも見たことがあるはずです」
サソリはそう言って空を見上げた。
排ガスもスモッグもない、晴れ渡った夜空。ネオンや車のライトによる「光害」もない。
真っ黒い空天の中に、都会では見ることが出来ない満天の星が輝いていた。
「――ほら、あれですよ」
サソリがそう言って首をねじ曲げた。
「どこを見ているんだ。地球の卵は地中に――」
「ほら、またありましたよ」
今度はサソリの首が逆に曲がった。
「どこを見てるんだね」
「真上に決まってるじゃないですか。うぁー、今度のはまたでかいや!」
その方向に老人は顔を向けていた。そして、その目に飛び込んできたのは、一閃の筋だった。暗闇の中に突然現われ、閃光をきらめかせながら一瞬のうちに流れ去るもの。
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