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「あれ、分かりますよね」
と、サソリは笑った。「あなたも学者なら知っていると思うけど、流れ星というのは宇宙のゴミです。でも、そのゴミが集まって、新しい星が形成されますよね。大自然の中で一番美しく、無限で、そして誰にもその動きを止めることが出来ないもの。つまり、星の卵であり生命の卵。昔からあれだけは誰にも奪うことが出来ない宝だとされてきたんですよ」
老人は、無数の星が輝く天空を見つめていた。
また一つ、星が流れた。
「私が探していたものって……これだったのか……」
「我々がいる地球ではなくても、あの流れ星たちが、新しい地球を作ってくれるはずです。憎しみも、争いもない、平和な地球をね」
サソリは手の中からするっと飛び出すと、「宝というものは、あの流れ星じゃないはずです。この地球です。昔の人たちだって、星がきれいに見える地球を守りたかったはずですよ。もっとも、地球が汚れるなんてこと、誰も思っていなかったかもしれませんけどね」
サソリはそう言って、砂の中に消えて行った。
老人は空を見上げた。都会では見ることが出来ない、満天の星空である。しかし老人の目には、それがしだいにぼやけて来た。薄っすらと涙が浮かび始めたからだ。
「私は、今まで、何をやっていたんだ……」
サソリの言葉を聞いた老人は、三十数年の時間が帳消しにされたような気がした。そして、宝というものが、決して形あるものだけではないと、初めて悟ったのだった。
帰ろう、と老人は思った。日本から遠く離れた砂漠の真ん中で……。
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