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「ラーイ王女の身柄、たしかに届けた」
女がかるく地を蹴ると、その身は容易に宙に浮いた。
瑠璃色の翼が大きく羽ばたき、癖のある銀髪が風をはらんでふわりと広がる。
「待て! 名を名乗れ! 姉上の仇は、必ずこの私がとるゆえ!」
「そのような無様な恰好で、よくも吼えられたものだな。私がおまえに名乗る必要などない。もう二度と会うこともなかろう」
女の身が陽炎のように揺らめき、だんだんと透きとおっていく。
助け起こそうとしてくれている兵士の手を振り払い、ユーイは床に転がっていた剣をつかむと、自力で立ち上がった。
今にも姿が消えようとしている女に、まっすぐに剣の切っ先を向ける。
「馬鹿にするな。私の言葉に嘘はない! 今は非力でも、いずれおまえを倒せるだけの力をつけてみせる! 名を名乗れ!」
女はふっと、口もとだけで笑った。
「人の命とは儚いもの。幼き王女よ、死が訪れるその日まで、しかと生きるがいい」
最後の言葉がユーイの耳に届くころには、すでに女の姿はそこになかった。
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