プロローグ

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「逃げるのか、卑怯者!」  叫ぶユーイの声が、むなしく残響する。  唇を噛みしめ、行き場を失った感情を薙ぎ払うように、ユーイは勢いよく剣で空を斬った。  反動で、剣はそのちいさな手から離れ、甲高い音を響かせながら床へと転がる。 「ユーイさまっ。ご無理なさいますな。これ以上はお体に障ります」  くずおれるようにして膝をつき、咳きこむユーイの身を、駆け寄った壮年の兵士が支える。  そのまま己を抱え上げようとする兵士を押しのけ、ユーイは床に横たえられている水晶に這い寄った。 「姉上、なにゆえこのようなお姿に……。いったい何があったというのですか」  胸に突き刺さっている短剣さえなければ、ただ穏やかに眠っているようにしか見えなかった。
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