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私は、風を受けるのが好き。誰よりも早く走るのが楽しくて仕方ない。
けど、私の全力をあっさり追い越す奴がいる。
(位置について)
あいつが大キライだった。
(よーい)
だけど、あいつの走り方がキレイな事に気付いてしまった。
(どん)
当然の様に、決められていたみたいに、私はあいつを好きになった。
(スタートダッシュ)
「先輩って走るの早いね。うらやましい」
あいつに向けた、初めての言葉は自棄に可愛くなくて。でもあいつは笑った。
「君も女子で1番早いだろ?」
笑顔が私に向けられた事が信じられなくて、恥ずかしくて、タオルで顔を隠すように汗を拭った。
「まあね」
より早く走る方法は知っていたけど、あいつと仲良くなる方法は、知らなかった。
(前半)
けど、その日から、少しだけ、仲良くなった。時々、一緒にクールダウンする。
(後半)
初めて、帰りが一緒になった。並んでファーストフード店に入る。緊張なんてしたこともないのに、柄にもなく緊張した。食べ慣れてるはずの、ハンバーガーの味がよくわからなかった。
(ラストスパート、失敗)
好き。たったそれだけの一言が言えなかった。そのせいで、いろんなことが、手につかなくなった。
夏の大会は目前なのに。
あいつは、早く走る。私なんかが足掻いても、追い付けないほどに。私は気持ちと一緒に足までもつれて、早く走れない。
(ゴール)
大会、当日。
私より先に優勝を決めたあいつが、頑張れよ、と笑う。足はもつれない。全力以上の力で走る。風になった気がする。身体が軽い。今、私は風より早い。
優勝した。他の部員と一緒になってあいつが笑ってる。私は満面の笑みでピースサイン。皆からの拍手。今日の私は、なんでも出来そうな気がする。
帰り道、謀った訳でもなく、あいつが隣にいた。私は少しだけ息を止める。
「先輩のおかげで、優勝できたんだよ」
あいつは、目だけで笑ってから言った。
「優勝したら言おうと思ってたんだ。君が陸上部に入った時から好きだった」
私は、何しても敵わないなあ、と思いつつ言った。
「私も、」
End
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