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「かーごめ、かーごめ。かーごのなーかの、とーりーは」
冷たい隙間風の吹き込む闇の中、それは間延びした声で歌っていた。
するとどんっと闇が叩かれ、ついでヒステリックな女の声が怒鳴る。
「うるさいっ。黙ってろって言ってるでしょ!!」
僅かに襖がずれたか、弱い光が差す。それでようやく、その闇が狭い押入れの中なのだと分かった。
「また、怒られちゃったね」
「うん、でも大丈夫。もうすぐ眠るから」
「お腹すいたね。次はいつ食べられるのかなぁ」
それは、声から察するに十二、三歳の子供のようだったが、微かな光に照らされた姿は骨と皮ばかりで、十にも満たないように見える。
ぼろぼろの毛布にくるまり身じろぎする度、かさかさと紙おむつの擦れる音がした。
それは、爪を噛みゆらゆらと身体を揺らす。怠そうに壁にもたれると目を閉じ、壁板の隙間に耳をあてる。
どうやら、東風の鳴くのを聞いているようだ。
「いーつ、いーつ、でーやぁるー」
風の音に合わせるように先程より潜めた声で、歌の続きを口ずさむ。ゆらゆらと、ゆらゆらと揺れながら……
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