F熱

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  「明け方には道も幾らかは空くでしょう? ビール? ワインは赤なら冷えているわ」 「始めにビール、次にワイン」 図々しい。 グラスを用意する美咲を横目に、僕は革のソファーに腰を沈めた。 硝子のテーブルにはテレビのリモコンだけが乗っている。 「どうせ謎の病気のニュースだけだろう」 道路の渋滞も民間機が空を飛ばなくなったのも、教師が授業を放棄するのも医者が患者を診ないのも、昨年の暮れからこの国に広がり出した新種の伝染病のせいだという。 「ワガママなんて病気じゃないよ。マスコミがまくしたてるから心の弱い連中が真似をしているだけさ」 「そうかしら?」 美咲は缶ビール2本とグラスを2個、トレイに乗せて運ぶと僕の隣に下着姿のまま座った。 リモコンを手に取りテレビをつけ、ぼくはそれを取り上げて、唯一報道番組ではないフィギアスケートのチャンネルを選ぶ。 「F熱‥‥」 「え?」 スケート選手の映像は画面の左下に押し下げられている。 余白には新型病の発症者数の棒グラフと、関連事件のテロップが動いている。  
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