F熱

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  見たくは無い数字だが、目に飛び込んでくる。 昨日の新型伝染病の疑いのある者の純増数273人。 共通しているのは善悪の区別がつかなくなっている点と、軽い風邪のような症状が続いていること。 「さっき‥F‥‥何て言ったの?」 美咲は細長いグラスにビールを注いでくれているが、泡の量には頓着が無いらしい。 ほとんどが泡のグラスを呆れ顔の僕へ渡した。 「ええと、何に乾杯しようかしら。翔くんの契約成立? 私と翔くんの再会を祝して?」 美咲の肌が、また僕に触れた。 少しだけの後悔と、無作法な欲情。 「仕方ないわ、アナタ達の結婚を祝ってあげる」 美咲は僕の頬にキスをした後、流れで僕の左の耳たぶを軽く噛んだ。 離れて行く甘い香りと赤い唇。 僕と婚約者の紗智、そして今隣にいる美咲は中学から高校まで、学校もクラスも一緒だった。 頭の良い美咲は国立の大学へ、僕と紗智は3流の大学を選び今日がある。 「二人の結婚を祝して」 僕が弱く握っているグラスに、美咲のグラスが重なった。 音はしない。 赤い唇は、少しだけ微笑んだかに見えた。  
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