30人が本棚に入れています
本棚に追加
見たくは無い数字だが、目に飛び込んでくる。
昨日の新型伝染病の疑いのある者の純増数273人。
共通しているのは善悪の区別がつかなくなっている点と、軽い風邪のような症状が続いていること。
「さっき‥F‥‥何て言ったの?」
美咲は細長いグラスにビールを注いでくれているが、泡の量には頓着が無いらしい。
ほとんどが泡のグラスを呆れ顔の僕へ渡した。
「ええと、何に乾杯しようかしら。翔くんの契約成立? 私と翔くんの再会を祝して?」
美咲の肌が、また僕に触れた。
少しだけの後悔と、無作法な欲情。
「仕方ないわ、アナタ達の結婚を祝ってあげる」
美咲は僕の頬にキスをした後、流れで僕の左の耳たぶを軽く噛んだ。
離れて行く甘い香りと赤い唇。
僕と婚約者の紗智、そして今隣にいる美咲は中学から高校まで、学校もクラスも一緒だった。
頭の良い美咲は国立の大学へ、僕と紗智は3流の大学を選び今日がある。
「二人の結婚を祝して」
僕が弱く握っているグラスに、美咲のグラスが重なった。
音はしない。
赤い唇は、少しだけ微笑んだかに見えた。
最初のコメントを投稿しよう!