F熱

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  時間は淫らに過ぎて、ようやく服を着た美咲は携帯電話の灯りを頼りに、箪笥の引き出しを開け何かを探している。 「翔くん、蝋燭」 「もう消えちゃうよ、これ」 青い縞模様のティーカップの中で、か弱く燃えている小さな炎。 それが動くから、真っ白い壁で僕の形が影絵をする。 「貴方と紗智への結婚祝いよ」 近眼の美咲が3段目の引き出しを覗き込み、僕と蝋燭の炎もそこを覗いた。 沢山の写真がある。 球技大会、修学旅行、合唱コンクール、水泳大会、遠足‥‥ 全ての写真に僕がいる。 「難儀をしたのよ」 美咲の指先が茶色い硝子のアンプルを見つけた。 「新型の病気はね、F熱に感染した体に風邪のウイルスが入る事で進行するの。F熱だけのワクチンなら2年も前に試作されていたわ、それがこれ」 美咲はアンプルを僕のズボンのポケットに入れた。 「外出禁止令と言っても、帰宅や食料の買い出しは許されるだろうからワクチンは紗智にあげて。C組の田中さんが看護師をしているから私が接種を頼んどいてあげる」 「あのさ‥‥」 僕の疑問を、美咲の唇がまた塞いだ。  
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