見えない気持ち~side A

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          「あー、もう春だな…」 長い冬が終わりを見せ始め、吹く風もいつしか春めいてきた今日この頃 確かに春はもうすぐそこだけれど… 「はっ?なんだよ、突然」 いつもの情事の後、同じベッドに横たわっているもう一人の人物が何故突然そんな言葉を発したのか意味がわからず、怪訝な表情で眺める 「え?だって、新入社員の季節じゃん 今年は可愛い子入ってくるかな?」 もぞもぞとシーツの中で動き回って、いかにも楽しみって表情ではしゃぐそいつを呆れ顔で見てやった 「…………」 それに気づいたのか、拗ねた口調になって 「別にすぐに手ぇ出すつもりなんてねぇよ」 ちゃんと俺に懐かせてぇ、従順になった頃に…なんて物騒な事を呟いている 「ふーん、まぁいいけど」 もう一度シーツの中の、なめらかなその肌に掌を滑らせて呟くと 「お前はどうなんだ?赤西?」 訊きながら、俺の手をすり抜けてシャワーを浴びる為にベッドから降りてしまう 行き場を失った手を見つめて 「俺は…、当分いいよ」 あの出来事から軽く(いや、結構重く)人間不信気味になっているせいで、特定の相手を作る気にもなれない 「ふーん、まぁいいけど」 さっきの俺と同じ返答をしてバスルームへ消える背中を見送った  
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