見えない気持ち~side A

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          * * 上田の待ち焦がれた季節がやって来た いつもの時間、いつも通勤する満員電車でいつもの通りに出社 “何か、いつも通りでつまんねぇなぁ” なんて、社会人失格な事考えながら混雑したエレベーターホールで列に並んでいた 待つ間、何となく見渡した風景の一部に目が止まる ――見かけない顔 何故かオロオロしている表情が、何ともいえない幼さを醸し出している こんなところで何をしているんだろうと考えて思い至る ――ああ、今日は入社式だ でも、時間的には既に会場に居なければいけないはず… 困ったように数あるエレベーターを見回している姿に、普段は見て見ぬふりを決め込む俺だが… 「なぁ…、あんた新入社員?」 近づいて声をかけてしまっていた 急に話しかけられたせいか不安げに俺を見つめるその青年に目が釘付けになる 板についていないスーツ姿 俺より小柄な、色白で細い体つき そして、綺麗に整った顔で泣き出しそうな上目遣い… 「………っ」 ――くそっ…、可愛いじゃねぇか!! と、不覚にも鼓動が速くなった 「あの…」 青年が小さな声を振り絞る 「入社式の会場に行きたいんですけど、どのエレベーターに乗っていいか解らなくて…」 適当に乗ったら、目的の階に止まらなくて… と、泣きそうになりながら訴えられた  
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