第一章

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「…………」    夏谷はぴくぴくと引きつった笑みを浮かべながら、窓際に近付いた。  そして柔らかな朝日を遮るカーテンを勢いよく開く。寝ぼけた目に眩しい朝の光が、鮮烈に室内に差し込んだ。  快晴というべき青空に、飛行機雲が二本筆で描いたように白の線を引いている。道路の上空を走る電線には雀数匹が羽を休めていて、チュンチュンチュンと控えめな歌声を奏でている。  ……ふう、良かった。いつも通りの朝だ──。  夏谷は額に浮かんだ焦燥の汗を、息を吐きながら袖で拭った。  理由も方法も一切不明だが、あの緑一色の単調な景色は妹のいたずらか何かなのだろう──。否、そうでなくては説明がつかないではないか。  夏谷がそうして何とか理解不能な事象を、理屈をこじつけて飲みこもうとした時である。  そこでさらなる理解不能が夏谷を襲った。  ぶうぅん、というまるで車の排気音にも似た音を発しながら、何か見慣れない奇妙な物体が、悠然と道路を走行している──。  夏谷はそのシルエットを呆然とした目で追いかける。そして、自分が見たものが信じられないというように、袖で目を何度も擦った。
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