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本日、園元夏谷は珍しく目覚まし時計よりも早くに目覚めたのだが、ぱっちりと目蓋を開いた瞬間、そこにあるものを目撃してそこからさらに目を見開くことになった。
天井が──まるで森林のように生い茂っていた。鼻腔に感じる緑の香り。森の奥で仮睡していたような心地よさ。
ベッドの上で仰向けになりながら、夏谷は静かに混乱した。
考えうる可能性を全力で探してみる。
いたずらか。妹がいたずらしたのか。それとも気づかぬうちに匠がこっそりリフォームしていったというのか。
夏谷は口許を引きつらせながら、
「ま、まさかな」
と呟いた。
混乱しつつも、とりあえず身を起こして部屋を見渡してみる。
木々の葉は天井一面に生い茂っているらしかった。窓辺の白いカーテンから溢れる日光に反射し、濃淡鮮やかな緑の影を部屋の壁に落としている。
見慣れた蛍光灯。白いの明るい勉強机。読みかけの文庫本。
壁のハンガーには夏谷の学生服が掛けられていて、その反対側の壁にクローゼットが置いてある。
だがしかし、その壁がおかしかった。
「な、なんだこりゃあ……」
壁から──健康そうな太い木の枝が飛び出していた。夏谷は恐る恐るベッドから抜け出すと、枝の生えた所まで近付いていって、やがて好奇心に負けたようにその境目に触れてみた。
「うわ、ホンモノじゃねえか……」
枝を指先で強く押すと、まるで林檎や柿の実のような固さの瑞々しい弾力に押し返された。
固いのに柔らかいような、健康な植物独特の感触。
顔を近づけてよく観察してみると、枝の周りはぴっちりと白い壁が埋めていて隙間が全くなかった。
夏谷は顔を上げた。変貌した部屋の様子に、ただただ呆然と立ち尽くしている。夏谷は心ここにあらずといった様子で枝の先を目で追って、天井の葉っぱに繋がっているという当然のことを確認した。
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