アリス

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「さて、今日もお集まりのみなさん、今日もお 集まりいただいてありがとうございます。え? 同じことを言ってるって?ふふふ、紅茶がいい ですかコーヒーがいいですか。残念ながら今日 は紅茶しか用意しておりませんよ。昨日も一昨 日も、その前もそのずっと前も。明日のことは わかりませんが、どうでしょうね。これはお茶 会なのだから!」 アリスは口を挟めずに、ずっと震えていた。 こんなに恐ろしいお茶会、アリスは見たことも 聞いたこともない。なぜならお茶会に出席して いるのはほとんどが帽子を被った生首なのだか ら。しかしアリスは、今も上機嫌で話し続けて いるこの人物に、話しかけなくてはいけなかっ た。そうしないとこれからいつ、人と話ができ るかわからない。この世界に人がいることさえ 今知ったのだから。 「あの、もしもし…」 ただ一人だけ首と胴体がくっついたまま紅茶 を楽しんでいる、帽子を被った顔色の悪い男。 アリスの声に気づいてこちらを見た。 「よく見れば君、僕のお客さんじゃないね。な んていうか、僕に話しかけるし、泣きそうな顔 をしている。僕のお客さんはなぜだか、僕がな にを言っても喋らないんだ。僕が、これ以上な いほど素晴らしい帽子をプレゼントしてもだ よ?」 アリスは恐る恐る言ってみた。 「それは、頭だけだからじゃないかしら」 帽子を被った男は周りを見渡して、少し疲れ た顔をした。 「だってこの人たちは、こうなる前は僕を殺そ うとしていたんだよ。もしくは逃げようとす る。だからしょうがないんだ。やっと僕のお客 さんになってくれたんだよ」 「これ、全部あなたが…?」 「ああ。君も僕のお客さんになる?」 アリスはブンブン頭を振った。 「それで、答えてくれない人たち相手に一人で お茶会をしているの?」 男は一瞬だけ泣きそうな顔をした。 「一人じゃ、ないよ…」 アリスは血の滴る帽子をもう一度見て、それ に笑顔で話しかける男を想像した。なぜだかア リスは胸が苦しかった。
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