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ちょうど去年の今頃、拓海が僕に嬉しそうに報告してきた。
「タツさん、俺、雅ちゃんと付き合うことになったんです」
佐藤雅は、そこから更に3ヶ月ほど前に派遣会社から派遣されてきた、事務の女の子だった。
まだ、24歳と若く、派遣初日の朝礼では、男性社員がにわかにざわめきたった。
150センチほどの小柄で、目は大きく、髪型も雰囲気も柔らかくフワフワとした感じで、高校生と言われても、なるほど、と思うような幼い顔立ちだった。
しかし、幼い顔と対照的な大きな胸に、皆の視線は釘付けだった。
社内の未婚男性社員は、こぞって彼女を「守りたくなる」と言って、
得体の知れない何かから彼女を守る騎士になろうと、一時期壮絶なアピールの応酬が繰り広げられていた。
その騎士レースに拓海は見事競り勝ったようで、
ついに憧れの佐藤雅の隣で、世の中の一切合切から彼女を守ると息巻いていた。
「拓海は、僕との長い付き合いで、女の子に手をあげたなんてことは、一度も聞いたこともないんだ」
僕がそう言うと、雅は、悲しそうに俯いた。
「…タツさんも、信じてくれないんですね。
うちのお母さんもそう…。ただの喧嘩でしょうって。あの拓海くんがそんなことする筈ないって…」
「ミヤ…」
気付くと、雅の頬には一筋涙が流れていた。
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