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教科書をカバンに入れているとー! 「お前、またバスケやるの?」 光輝が話し掛けてきた。 「やらない」 無愛想に言葉を投げかけると 光輝は苦笑いだった。 「そっか」 期待を裏切られた人のような態度で光輝は教室を後にした。 またバスケの話し。 うんざりする。 バスケなんて大嫌い。 自分で言っていて泣きそうになるのを我慢した。 すると美菜ぞうが私の机の前に立っていた。 「美菜ぞう?」 美菜ぞうは真剣な目で私を見下ろしていた。 その目はひどく冷たかった。 そんな目で見ないで。 「バスケが嫌いなんでしょ。だったらそんな悲しそうな顔しなければ良いのに」 美菜ぞうには私の心の中が見えるのかな。 一瞬そんな事を考えた。 「美菜ぞうには分かんないよ」 小さな呟きだったけど美菜ぞうにはしっかりと聞こえていた。 「私は瑞季のこと誰よりも分かっているよ。後悔ってね、絶対に後からするものだよ」 美菜ぞうはいつもの表情に戻り、そんなことを言った。 私のことが分かる? そんなことは絶対にない。 恵まれたそのスポーツの身体。 ケガなんてしたことのない身体。 そしてその身長。 すべて私には無かったもの。 それを美菜ぞうは全て持っている。 何度、夢見たものか。 「私のことが分かる?美菜ぞうは絶対に分かってない」 「・・・」 自分が苛立っているのが分かった。 「私は美菜ぞうみたいな恵まれた身体じゃないけど、速さだけは備わっていたの。そんな私がそれまで失ったら何も残らないじゃん」 美菜ぞうは静かに私を見ていた。 「後悔?そんなのとっくにしてる」 涙が頬を伝う。 あの時の記憶がフラッシュバックする。 「もうバスケバスケって言わないで。私は全て失ったんだから」 最後の呟きは美菜ぞうに聞こえたか分かんない。 「随分腰抜けになったね。私が何もかも持ってるとか思ってる。違うよ。私にはこの体しかないんだよ。後は全部努力」 美菜ぞうはゆっくりドアに近づき振り向く。 「また最初から始めれば良いじゃん。待ってるからね」 教室に残された私は窓の外を見つめた。
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