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「死体愛好家」
「今日も綺麗だね」
男はまるで宝物を見る様な笑みを浮かべて、今日もホルマリン漬けにされた妻の死体に向かって話し掛ける
妻が病死してからずっとそうだ
妻の事を本気で愛していた
だから心の時を止めて、妻の死体を生きていた時の妻だと思い、愛す
それが死んだ妻に対する
最高の愛情表現だと男は思っていた
だから周りがいくら早く燃やす事を提案しても男は聞く耳を持たなかった
ある日男はホルマリン漬けにされたはずの妻の死体が腐っていく幻覚を見た
男はひどく狼狽した
何で俺の妻が腐るんだ、頼む、頼むから思い出させないでくれと
そして心の奥に封印していた記憶の破片が全て繋がった時、男は気付いた
妻の死体を愛する事が妻に愛を捧げる為だと思っていた事が、本当は自分自身への慰めでしか無かった事に
やっと現実を受け止めた男は妻が死んでから初めて泣いた。泣いて泣いて泣きじゃくった
そう、どれだけ心の時を止めても結局自分が生きているこの世界はリアル
確実に暦は流れていき身体は退化していく
男は妻の死体を燃やした
だから生きよう、今を
淡い光に一歩踏み出す為に
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