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握りしめた拳は怒りに重く震える。
それでも女が男を殴らないのは、男が国王だからではない。
そもそも、女はこの城で働く使用人だが、男に対し、信頼も忠義も持ってはいなかった。
彼女が仕えるのはただ一人。
この城の一角、東の塔に半ば幽閉されるかのように囲われた少女、その人だけである。
その少女の父親にして、囲い主が目の前にいる。
「もう14だ。普通なら、もう結婚していてよい年だ。何もそんなに騒ぎたてることじゃあない」
「いいえ。いいえ、陛下!これを叫ばずして、どうします!無礼を承知で言わせていただきますが、姫さまはまだそんな時期になっておりません。恋すら知らぬ娘です」
「なればこその結婚……なぁに、恋とて、全てが幸せにゆくとも限るまい。ならば、いっそ最初から望まぬがよし。愛なくとも、財あればそれもまた幸せ」
女の言葉に男は妖艶に笑う。
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