私にとっての鍵なのです

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「兄の知らせを聞いたのもこんな空の時でした」 この言葉は責められているようなそんな感覚を私に与えるものでした 直接私が悪いわけじゃない そもそも私は悪くないのだ そう思いたいのに思えない この罪悪感は彼を知ることが出来なかった私への罰なのだと思わざる終えない 沈み込んだ私に気づかずに話し続ける姿は彼に似ても似つかない いや、気づいているのかもしれないし気づかないフリをしているのかもしれない 益々彼とは真逆だ だが、その彼も嘘だったのかもしれない 最後の最後まで見ていて、そんなこともわからない私は人の心理を知るには大変烏滸がましいやつなのだろう 視線を前から外さずに淡々と話す姿は彼じゃない 彼はもういないのだ 彼と同じ血液をもつこの子のどこにも彼の面影は感じない 何故私は彼の弟だと気づいたのだろう そんな疑問が浮かんだ… 「兄は最後に何を思ったのでしょう」 すっかり話を聞かずに自分の中で自問自答していたが、この言葉に心臓が揺れた そしてわかった この子が私を尋ねてきた理由が 彼の心理を追い求める私と、この子は同じ もう知ることのない虚無に終われ、飛ぶことも出来なくなった鳥なのだ しかし、羽ばたきを忘れた私とは違いこの子にはまだ感覚が残っているのだろう でなければ、私のところには来ない 「兄のことを知りたいんです」 今度ははっきり私の目を見て言った 私は瞳を閉じた ゆっくり思い出す あの日あの頃あの時を… いや、違う もっと前だ 彼と出会い、彼に興味を持ったあのはじまりの日を
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