田舎の夏には憧れがありました

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僕が山と海がある日本列島の隅に位置するド田舎に来たのには理由があります 僕には7つ年の離れた兄がいました 兄はクラスでも学年でも人気者で誰とも仲良く出来る、そんな人でした 兄に彼女がいたというのは聞いたことないのですが、生前我が家にも一度連れて来たことのある女の人が一人だけいたのです 当時兄は付き合ってないけど、いつも一緒にいるやつなのだと言っており、兄の信頼をもっとも受けていた人なのだと歳を取るごとに少しずつわかっていきました そして、その女性から兄について聞き出そうと至ったのです 何故かというと、当時10歳であった僕には兄は知ることの出来ないとても高い氷山のような人だという認識が僅かながらにあり、どんなに手を伸ばそうとも届かなく触れると自身の手が凍りつくような冷たさをどこか感じていたのです ですが、僕が少しずつ兄の歳に追いついていくとそんな兄の心理が少しずつ読みとれるようになりました 兄はとても優しい人でした 学校から帰宅すると小学生だった僕とよく遊んでくれて、共働きだった両親の代わりのごとく愛情を注いでくれました そして、そんな兄の高校生活などを聞くのはこれから歩むであろう期待と希望に満ちた日々を僕も味わいたいという一種の魔法のようなものにかかったが如く羨望しておりました しかし、高校の話をする兄は楽しそうであると共にどこか思い悩んでいるようであり、苦難の色を浮かべる瞳には高い氷山が作られており、僕が諭すには思考が追い付かなかったのです 小学生と高校生での思考の最後の差は今の僕からするととても大きかったと思います
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